ツツジ 花 |
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エッセイツツジの花の思い出 |
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昨日今日と下着に付いた不正出血に気づき、婦人科の診察を受けたのは、平成11年の 4月の末でした。大病院は待ち時間が長いので、近くの小さな産・婦人科を選びました。 「不正出血したとなると、ガンの検査をしますからよろしいですね」 一見するとおとなしそうな中年の先生でした。受付にもその旨を伝え、そのつもりで受診 したのに、開口一番にそう念を押されました。 診察台に横たわると両足を固定され、下半身をカーテンで閉ざされました。静かで カチャカチャという金属の触れあう音が聞こえ、しばらくして医師の気配を感じました。 膝に生あたたかい手が触れ、下半身に冷たい金属の感触がありました。 すると真上のモニターに超音波画像による私の子宮内部が映し出されたのです。
着替えをして診察室に戻ると、先ほどの超音波画像の写真が、医師の机の上に並べて ありました。気になっていたので恐る恐るこの影が何であるのか訊いてみました。 「ああ、これね・・・なんでもありませんよ、何かのかげんで写ったのでしょう」 ここで私は少し不安になりました。何かのかげんではなく、この部分を病理検査のため 切り取ったはずなのです。医師は私の思惑などかまわずにカルテにペンを走らせながら、 「今まで家族の方でガンにかかったことは?」と訊きました。 「それが、二日前に母が食道ガンと言われ、今、検査入院しているんです」 「ははぁ・・・食道ガンね・・・」とカルテに書き込むと、 「前回のガン検査、いつごろでした?」 そう訊くと、このとき初めて私の方を振り向き、正視しました。
帰り道、医師の言ったことを反芻していました。 「ま、あまりくよくよ考えないことですね。 かと言ってのんびり構えていてもこまりますけど。」 「結果がでたあとのことは、そのときにまた考えましようよ」 私には長い間ガン検査をしていないという負い目がありました。それに血縁者である母のガン。 特に医師の「結果がでたあとのことは、そのときにまた考えましょうよ」と言った不用意な言葉。 この言葉は重い含みとなって私を苦しめ、日に何度となく診察室でのことを思い返していました。 ― のんびり構えちゃいけないって、どういうこと? 何でもないこともあるのに、 結果後のことをなんで持ちだすの? まるで何かあるみたい・・ ― ― もしかして先生は初めから分かっていたのかも。念のための検査だったんだ ― ― あの影、1,8ミリくらいあったかな、 あの大きさならもう手遅れ? 転移して いることもある訳 ? ― 初めは単なる疑問でしたが日を追うごとに疑心暗鬼を生じ、疑いはどんどん深まって いきました。胃は正直なもので、すぐに水分以外何も喉を通らなくなりました。 結果が分かるのは連休明けの5月6日、10日後でした。
合間を縫って、夫がこの薬師池公園に連れてきてくれたのは、そんな状態のときでした。 ツツジはちょうど見ごろで、辺り一面鮮やかに咲いていました。5月の連休とあって 園内はたくさんの人で込み合い、みな健康そうで穏やかな顔をしていました。 人のにぎわいの中に身を置いていると、不思議と安心感がありました。夜の闇と、昼の明るい 日差しがこんなにも違う感情をもたらすものなのかと驚きました。そしてあの超音波画像が 恨めしく思えました。見なければ、まだ検査の段階でこうまで思い悩むことはなかったはずなのです。 物言わぬ花を見つめていると、(来年もまたこの花が見られるのかな・・・) そんな思いがよぎり、ツツジの道を歩いていました。
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